獣医療コラム

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愛犬の皮膚炎がなかなか治らない|原因を特定することが大切

愛犬の皮膚炎が治らない、または再発を繰り返すという問題は、多くの飼い主さんが直面している課題です。
しかし、根本的な原因が特定されないと適切な治療や再発防止策を施すことができずに、治療が長引いてしまうことがあります。そのため、様々な検査を通じて、アレルギーや他の病気が原因で皮膚炎が引き起こされていないかを確認することが大切です。

今回は犬の皮膚炎について、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。

原因
皮膚炎は主に、細菌や真菌(カビ)などによる感染性の皮膚炎と、アレルギー性皮膚炎に分けられます。

<感染性皮膚炎>
細菌性皮膚炎(膿皮症):皮膚の常在菌が過剰に増殖し、炎症を引き起こします。犬の免疫力が低下しているときや、何らかの原因で皮膚が傷ついたときに起こることが多いです。またジャーマン・シェパードは発症したときに重症化しやすいことが知られています。ほかにも柴犬やシー・ズー、フレンチ・ブルドッグ、ゴールデン・レトリーバー、ウエスト・ハイランド・ホワイトテリアは膿皮症になりやすいと言われています。

マラセチア皮膚炎:マラセチアという酵母菌の一種が過剰に増殖することで発症します。特に湿度が高い環境や、皮脂分泌が多い状態で起こります。さらに、アレルギー性皮膚炎や膿皮症、ニキビダニ症、脂漏症など、他の皮膚病が皮膚の環境を悪化させ、マラセチア皮膚炎が二次的に発症することもあります。特定の犬種や猫種には遺伝的な発症リスクが高いとされていますが、実際にはどの犬猫でも発症する可能性があります。

皮膚糸状菌症(真菌性皮膚炎):環境中に存在するカビの一種である皮膚糸状菌が皮膚に感染することで起こります。無症状ながらも感染している動物と直接触れ合うことで感染が伝播することが知られています。特に免疫力が弱い犬や、若い犬に多く見られます。

<アレルギー性皮膚炎>
食物アレルギー:皮膚の食物誘発性過敏症反応のことで、特定の食材に対するアレルギー反応が皮膚に炎症をもたらします。アレルギー反応を引き起こす食材は複数にわたることがあります。生後3、4か月齢から発症することもあり、特に6か月未満の幼若期の皮膚炎の場合、食物アレルギーの可能性が高いです。

アトピー性皮膚炎:環境中のアレルゲン(ダニ、花粉、カビなど)に対するアレルギー反応によって発症します。アレルギー反応が過剰に起こりやすい体質など遺伝的要素も関与していると考えられています。発症年齢は一般的に6か月から3歳の間です。性別による傾向はありません。

ノミアレルギー性皮膚炎:ノミの唾液に対するアレルギー反応によって発症します。ノミに刺されたことのない動物が断続的にノミに刺されることで起こります。ノミの活動が活発な夏に最も多く発生しますが、温暖な気候ではノミの蔓延は年間を通じて続くことがあります。強烈な痒みが生じることが特徴です。

さらに、ホルモン異常による皮膚炎も存在します。副腎皮質ホルモン甲状腺ホルモンなどの、ホルモンの分泌異常が引き起こす皮膚病で、痒みが少ないものの、左右対称の脱毛や色素沈着が特徴的です。

症状
皮膚炎に伴う症状は多岐にわたりますが、赤みや痒みは皮膚炎の初期の兆候で、犬が自分の体を頻繁に舐めたり、噛んだり、掻いたりする行動が見られます。

さらに皮膚炎が進行すると、脱毛皮膚が厚く硬くなることもあり、細菌や真菌の感染が起こると特有の強い臭いを発することもあります。

診断方法
皮膚疾患の診断をするために、以下のような診断方法を行います。

押捺塗抹検査:スライドガラスを皮膚に押し当てて細菌、真菌、寄生虫、炎症の有無を調べます。

毛検査:ピンセットや毛抜きを用いて毛を採取し、顕微鏡で観察することで、皮膚状態を詳細に検査し、原因菌の存在を確認します。

皮膚掻爬検査(スクレイピング検査):皮膚の一部を掻き取り、顕微鏡で寄生虫や細菌の有無を検査します。

テープストリップ検査:皮膚にセロテープを押し当てて寄生虫を採取し、顕微鏡で確認します。

真菌培養検査:感染している真菌の種類によって、効果的な薬が異なります。見た目だけで判断し、間違った薬を使ってしまうと、症状が改善しないばかりか、悪化してしまう可能性もあります。真菌の種類を特定するために、皮膚から採取したサンプルを培養します。患部の皮膚をぬぐったりフケを採取したりして、特殊な培養容器に入れて3から10日間室温で静置することで培養します。菌の種類が分かれば、原因菌にピンポイントで効果を発揮する薬を選ぶことで、より早く、確実に症状を改善できます。加えて原因菌を特定することで、生活環境の見直しなど、再発防止策を立てることができます。
効果のない薬を漫然と使用することは、愛犬の体への負担を増やすだけでなく、医療費の無駄にもつながります。

ウッド灯検査:皮膚糸状菌が感染した毛は紫外線に当たると緑色に発色することがあり(検出率は50%)、感染が疑われる患部に、暗闇で特殊な紫外線ライトを当てて、光る毛を採取、顕微鏡で確認し、皮膚糸状菌感染の診断材料とします。

アレルギー検査:アレルギー性皮膚炎が疑われる場合、食べ物や花粉、ハウスダストなどの中から原因を特定し、適切な対策をとるためには、アレルギー検査が有効です。以下は主なアレルギー検査の紹介です。
皮内反応試験:アレルギーの原因物質を皮膚に注射し、反応を見る検査です。
アレルゲン特異的IgE検査:血液中のIgE抗体という物質の量を調べ、アレルギーの原因物質を特定する検査です。
リンパ球反応試験:血液から取り出したリンパ球を、様々な食物のタンパク質と反応させます。もしリンパ球が特定の食物タンパク質に対して反応を示せば、その食物がアレルギーの原因である可能性が高いと判断できます。この検査は、IgE検査ではわからない食物アレルギーの原因を特定できるため、食物アレルギーが疑われる場合に有効な検査です。
除去食試験:特定の食べ物を除去した食事を与え、症状の変化を見ることで、食物アレルギーの原因物質を特定する検査です。
これらのアレルギー検査で原因物質が特定できれば、アレルギーの原因物質を避けることで、適切な薬や療法を選ぶことができ、症状の改善につなげることもできます。

治療方法
皮膚疾患の治療は原因に応じて異なります。以下に、一般的な治療方法を紹介します。

細菌や真菌の感染がある場合

犬の皮膚炎で細菌や真菌感染が明らかな場合、治療は原因菌に特化した薬剤選択が重要です。細菌や真菌の培養検査を行い、原因菌に有効な抗生物質・抗真菌薬を選択します。抗生物質は耐性菌の出現を防ぐため、必要な期間のみ使用します。薬浴やシャンプー療法も効果的です。
痒みや炎症を抑える薬も併用し、基礎疾患(アレルギー、ホルモン異常、寄生虫など)があれば、その管理も同時に行います。プロバイオティクスやプレバイオティクスも活用し皮膚環境や腸内環境を是正し、再発予防に努めます。

炎症や痒みの抑制
重度の炎症や痒みにはステロイド薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が有効です。これらの薬は、愛犬の症状に合わせて獣医師が適切な種類と量を処方します。自己判断での使用は、効果が十分に得られないだけでなく、副作用のリスクも高めてしまう可能性があります。

アレルギーによる症状の場合
アレルギー検査で原因物質を特定し、その除去に努めることで、痒みを根本から改善できる可能性があります。同時に、抗ヒスタミン剤や副腎皮質ホルモン剤、免疫抑制剤などを用いることで、アレルギー反応を抑え、痒みを速やかに和らげることができます。これらの薬は、愛犬の状態に合わせて獣医師が適切な種類と組み合わせを選びます。

膿皮症、脂漏症、真菌感染症の治療
薬用シャンプーが症状改善に役立ちます。皮膚を清潔に保ち、余分な皮脂や汚れを取り除き、炎症を抑える効果が期待できます。ただしシャンプーの頻度が多すぎると、必要な皮脂まで洗い流してしまい、皮膚の状態を悪化させる可能性もあるため、獣医師のアドバイスに従って適切な頻度で使用することが重要です。

食物アレルギーの疑いがある場合
アレルギー反応を引き起こす疑いのある成分を含まない特別な食事に切り替え、症状の改善を目指します。

環境因子によるアレルギー
皮膚炎の原因がダニや花粉などの環境因子によるアレルギーの場合、ペットの生活環境を改善することが大切です。こまめな掃除で、特にダニが繁殖しやすいカーペットや寝具を清潔に保ちます。空気清浄機を使用し、空気中の花粉やハウスダストを除去することも効果的です。また、定期的なシャンプーで花粉が付着した被毛を洗い流し、皮膚を清潔に保ちます。花粉の多い時期は、花粉の少ない時間帯や場所を選んで散歩するなど、工夫も大切です。

これらの治療方法を適切に組み合わせながら、治療を進めていきます。

予防法やご家庭での注意点
愛犬の皮膚の健康を保つためには、毎日のブラッシングと観察が重要です。ブラッシングによって全身の皮膚を日常的にチェックし、赤み、腫れ、脱毛、強い臭いなどの変化が見られた場合は、すみやかに獣医師に相談することが大切です。
また、ノミやマダニなどの寄生虫が引き起こす皮膚疾患を防ぐためには、定期的なノミ・マダニ予防薬の使用が推奨されます。加えて、適切な栄養と清潔な生活環境を保ち、定期的なシャンプーも行うことで身体の健康を増進させ、皮膚を健康に保つことができます。

まとめ
なかなか治らない皮膚炎にはアレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎、内分泌疾患など他の病気が隠れている場合があります。
また、ご自宅での過剰なシャンプーや誤ったスキンケアは、治療期間を延ばしてしまう原因となることがありますので注意が必要です。

私たちエヴァーグリーンペットクリニックでは、愛犬の皮膚炎の治療にも細やかな配慮を心がけています。皮膚炎は見た目の不快感だけでなく、愛犬にとって大きなストレス源となることがあるため、その症状の軽重にかかわらず丁寧に対応しています。
飼い主様と一緒に最適な治療計画を立て、愛犬が一日でも早く快適な生活を取り戻せるよう、全力でサポートいたします。

皮膚の問題でお困りの方は、どうぞ気軽に当院にご相談ください。

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