獣医療コラム

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猫の歯肉口内炎について|硬い食べ物を食べられなくなったら要注意

歯を見せる猫

猫の歯肉口内炎は治療が非常に難しく衰弱性の疾患の1つです。
口内炎は誰でも1度は経験したことがあると思いますが、猫の場合、歯肉口内炎は炎症が口全体に広がり、口腔粘膜の腫れといったより重症な症状を引き起こし、痛みにより食欲不振が見られます。さらに進行すると食事量が圧倒的に欠乏し、栄養失調につながる可能性があります。
特に中高齢の猫に多く見られますが、若齢(1歳未満)の猫にも発症することがあります。欧米の調査研究では、猫全体の約 0.7% ~ 12% に発生していることが分かっています。

今回は猫の歯肉口内炎について、症状や治療方法、予防方法などを詳しく解説します。

原因

猫の口内炎にはいくつか原因があります。はっきりとした原因が特定されていないのが現状ですが、主に考えられる原因としては以下の5つが挙げられます。

・ウイルス感染

最近の研究では、 歯肉口内炎の臨床例における病因ウイルスを調査したところ、カリシウイルスが主となっていることが明らかとなりました。これまで関与が考えられていた猫白血病ウイルス FeLV、猫免疫不全ウイルスFIV、ヘルペスウイルスの関連性は見出されませんでした。
*出典 Greenfield B. Chronic feline gingivostomatitis: proven therapeutic approaches and new treatment options. Todays Vet Pract. 2017;7(1):26-38.
このウイルスは、猫の免疫系を異常に活性化させて、口内炎を引き起こす可能性があります。

・歯石の蓄積や歯周病

猫の口腔内の衛生状態が悪いと歯石の蓄積や歯周病が発生しやすくなり、これらの状態は口内炎のリスクを高める要因となります。3歳以上の猫の約8割が、ある程度の歯周病を抱えていると言われています。
2014年に米国で発表された研究報告では、歯肉口内炎をり患している猫は進行性歯周炎を患っているだけでなく、炎症が歯根にまで及び、歯の欠落を起こす可能性が大幅に高いことが明らかになりました。

・栄養不良

適切な栄養が摂取されていない場合、猫の全体的な健康状態が低下し口内炎を含む様々な疾患のリスクが高まります。

・内科的疾患

腎臓病は、体内の老廃物排出機能の低下を引き起こし、この結果として生じる尿毒症が全身の炎症反応を引き起こすことがあります。猫の口内炎においては、これが口内の炎症を増加させる可能性があります。2016年の研究では歯石沈着を伴った重症度の高い歯肉炎を持つ猫は腎臓病を高率で発症していました。
*出典 Finch NC, Syme HM, Elliott J. Risk factors for development of chronic kidney disease in cats. J Vet Intern Med 2016;30:602–610.

また、糖尿病の猫は、高血糖状態が持続することで、感染症に対する抵抗力が低下します。この抵抗力の低下は、歯肉や口内組織の感染症に対する脆弱性を高めることが知られています。また、糖尿病は血流不良を引き起こすことがあり、これが歯肉組織の修復能力を低下させる要因となると考えられています。
*出典 https://www.veterinarypracticenews.com/diabetes-and-dental-disease/

これらの要因が単独、または複合的に作用することで、猫の口内炎が重症化する可能性があります。

症状

猫の口内炎は強い痛みを伴い、この痛みは猫の行動や健康状態に影響を与えます。最も一般的な症状としては硬い食べ物を避け、柔らかい食べ物を好むようになることが挙げられます。この痛みが原因で最悪の場合、全く食べられなくなることもあります。
加えて、よだれが増えるのも口内炎の典型的な症状の一つで、これは口内の痛みや不快感が原因で起こります。

また、歯肉が炎症することで赤く腫れ上がったり、出血したりすることもあります。さらに症状が進行すると舌や口腔粘膜に潰瘍が形成されることがあり、これがさらなる痛みと摂食困難を引き起こします。その結果、水分摂取さえ避けるようになり、脱水や衰弱のリスクを高めます

診断方法

まず問診で飼い主様が気づいた症状、愛猫の食欲、活動レベルの変化、症状の発生時期などを確認します。
次に口腔内の視診を行い、歯肉の状態、潰瘍の有無、歯石の蓄積、その他の異常がないかチェックします。

この視診によって、炎症の範囲や重症度、病気の原因となっている可能性のある問題点を特定します。

全身状態を把握するために、血液検査が行われることもあります。この検査によって、腎臓病や糖尿病など、口内炎を引き起こす可能性のある他の健康問題を検出することができます。
また治療方針を立てるために猫エイズや猫白血病などのウイルス感染の有無も血液検査によって行います。
さらに、口内炎の原因となる歯周病や歯の問題を詳しく調べるために、歯科用レントゲン検査を実施することもあります。
歯肉口内炎は腫瘍に似た病変であったり、潰瘍性の症状を示していたりすることが多く、正しい診断のために病変部位をわずかに切り出して病理検査を実施することもあります。検査によって口内炎なのか、好酸球性肉芽腫、進行性潰瘍、扁平上皮癌などの他の口腔疾患なのかを鑑別します。

治療方法

口内炎の治療には外科的治療内科的治療の2種類があります。
内科的治療も選択肢の一つではありますが、予後が好ましくない場合が多いため、外科的治療が好ましい治療法となります。

まず推奨されるのは外科的治療で、歯垢や歯石の除去、感染した歯の抜歯、場合によっては全臼歯抜歯や全抜歯を行います。
抜歯は、特に口内炎が歯周病に関連している場合に有効で、2015年に米国で発表された研究によると、口の部分抜歯(すべての小臼歯と大臼歯)または口全体の抜歯を実施することで約80%の猫では歯肉口内炎の大幅な改善または解消が見られたことが示されています。
出典 Jennings MW, Lewis JR, Soltero-Rivera MM, Brown DC, Reiter AM. Effect of tooth extraction on stomatitis in cats: 95 cases (2000–2013). JAVMA. 2015;246(6):654-660. doi:10.2460/javma.246.6.654


なお、外科的処置を行う上で全身麻酔の使用は避けられません。特に、持病がある猫や高齢の猫の場合、全身麻酔に関して飼い主様が不安を感じることは自然なことです。
そのため、手術に先立ち、飼い主様に対して手術の必要性、手術内容、予想されるリスクや術後のケアについて、しっかりとご説明と術前検査を行ったうえで全身麻酔を行っております。



一方、内科的治療は、炎症のコントロールと痛みの管理を目的としています。
これには、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やステロイド薬の使用が含まれます。これらの薬は、炎症を抑え、猫の不快感を軽減する効果があります。抗生物質が処方されることもありますが、これは細菌感染が疑われる場合や二次感染を防ぐためです。
免疫抑制剤や免疫調節薬も、特定のケースで有効な場合があり、これらは免疫系が原因で起こる口内炎に対処するために用いられます。
サプリメントや栄養補助食品の使用も、口内炎の治療において重要な役割を果たします。特に、オメガ3脂肪酸やカンナビジオール(CBD)などのサプリメントは、炎症を緩和する作用が期待できます。

また、猫の口内炎は再発することがあるため、治療後も定期的な口腔内のチェックや適切な口腔ケアが重要となります。

加えて、根本原因に対する継続的な管理や、必要に応じて食事の調整も必要になる場合があります。


予防法やご家庭での注意点

猫の口内炎は完全に防ぐことは難しいものの、ウイルス感染はワクチン接種や室内飼いで予防が可能です。

また、歯周病は日頃からのデンタルケアで予防できます。若齢期の猫は比較的どんなことでも肯定的に受け入れることができるため、毎日のケアにデンタルケアも追加して予防に徹してください。愛猫のよだれが増えたり食欲が低下したりすることがあれば、早めに動物病院で口腔内をチェックしてもらうことも愛猫の健康寿命を長らえるためにとても重要です。


まとめ

猫の口内炎は、飼い主様にとっても、愛猫にとっても大きな問題です。

初期段階での対応が症状の悪化を防ぎ、愛猫の生活の質を守る鍵となります。もし愛猫に何か気になる症状が見られた場合は、迷わず獣医師にご相談ください。
愛猫が健康で快適な生活を送れるよう、飼い主様の理解と適切なケアが欠かせません。

私たちエヴァーグリーンペットクリニックでは、飼い主様の悩みを大小区別なく丁寧に取り扱い、最善のケアを提供することによって、1日も長く幸せにともに暮らしていただくサポートを目指しています。
お気軽にご相談ください。


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