獣医療コラム

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犬のトレーニングについて

トレーニングと聞くと厳しくキビキビと命令に従わせるというイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし正しいしつけは犬自身の安全で快適な生活のためでもあり、決して人間に服従させるためのものではありません。

今回は犬のトレーニングについて、その必要性を解説したいと思います。

ドッグトレーニングとは

犬は野生の状態では犬に特有の社会構造とルールを持っていますが、人間の社会ルールとは異なる点もあり、犬が人間の社会に受け入れられるために適切な行動を教える必要があります。
ドッグトレーニングは人間社会でのルールを犬に教え、人も犬も快適に暮らしていくことを目的としています。
出典:人道的な犬の訓練に関する見解表明American Veterinary Society of Animal Behavior, AVSAB

犬のしつけはなぜ必要なのか

犬を正しくしつけることは犬の幸せに繋がります。例えば愛犬に危険がせまっているとき(災害や交通事故など)、「呼び戻し」すなわち、呼べばすぐに飼い主の元へ来るようしつけていれば、速やかに安全な場所へ避難させることができ、危険を回避できる可能性があがります。これは犬の生命を救うだけでなく、飼い主様自身も危険な目に合う確率を低減できるでしょう。

また吠え癖があると散歩中やドッグランで他の犬や人々とトラブルになりかねません。公共の場での攻撃的な問題行動によって相手をケガさせてしまったときに法的な措置などを受けるリスクもあるため、愛犬を守るためにも行動の管理が大切です。

特に生後3週〜12週齢は犬の社会化期と呼ばれる大切な時期で、この時期に様々な人、犬、物音、外の環境などに触れることを通して、犬はさまざまな刺激に慣れて、恐怖や攻撃的な反応を見せにくくなっていきます。この時期に他者や外の世界と関わらず家の中ばかりにいると、適切な社会化が行われません。そうすると、未知の刺激に対して過敏に反応する傾向が高まって、家族以外の人間に吠えるようになったり、救急車やチャイムなどの物音に吠えたりといった問題行動が起こる可能性があります。
子犬の頃から、たくさん外の世界やいろいろな人・犬に触れさせることが大切です。
出典:Socialization of dogs and cats, Journal of the American Veterinary Medical Association

基本的なしつけのポイントと注意点

犬には遊ぶ・噛む・吠える・追いかける・探索するといった基本的な行動欲求があります。そしてこれらの欲求が満たされないと問題行動(噛み癖・吠え癖など)へと繋がります
科学的研究によると、行動欲求をみたすことは、動物の精神的健康を保ち、問題行動を減少させる効果があることが示されています。
出典:Claxton, A. M. (2011). The potential of the human–animal relationship as an environmental enrichment for the welfare of zoo-housed animals. Applied Animal Behaviour Science, 133(1-2), 1-10.
例えば引っ張りっこやボールなど愛犬とたくさん体を使って遊ぶことを日常的なルーチンとすることで、行動欲求を満たして葛藤やストレスを減らしてあげることが大切です。

特に犬が吠えてしまう理由としては、恐怖心で警戒しているとき、遊んでいるときや嬉しくて興奮しているとき、何かを欲求しているなど様々です。犬にとって吠えることは自然なコミュニケーション手段であるため、完全に吠えなくすることを目指すのではなく、適切にコントロールすることが大切です。ここでは吠えるときの感情とその対応法についてご紹介します。

・警戒して吠えているとき

吠えなくなるまで無視をするか、名前を呼んで注意を飼い主のほうへ引き付けて、静かになった時にごほうびを与えることが有効となります。この手法は「分化強化」とよばれ、飼い主への注目といった望ましい行動に報酬を与えることで、問題行動を減少させる積極的な手法です。吠えないと褒めてもらえるということを学習していきます。

・興奮して吠えているとき

目を合わせず無視をすることで、犬の吠える行動が何のメリットも生まないことを教えます。静かになったら低い声と落ち着いた態度で接することが、興奮を抑えるのに役立ちます。そのときにおやつなどあげることで、犬は「吠えないと良いことがある」と認識できるようになります。
犬が興奮しているときに甲高い声で制止しようとしたり落ち着かせようと体を触ったり撫でたりするとより興奮させてしまいますので、飼い主様は冷静に対応することが重要です。

・要求のために吠えているとき

目を合わせず無視をして、要求にこたえないことで吠えても良いことが起こらないと学ばせます。吠えることをやめ、犬が落ち着いた後で適切にほめることで吠える代わりに静かに待つ行動をするほうが褒められると学習させていきます。

また、トイレトレーニングも人間社会では欠かせないトレーニングで、褒めて学習させることが効果的です。トイレを覚えさせるうえで大切なことは、排泄しそうな素振りを見せたらトイレへ連れていき、犬が適切な場所で排泄した際には直ちに褒めるかおやつを与えることで、その行動を繰り返すよう学習させます。間違った場所での排泄を叱ると犬は排泄自体を叱られたと勘違いし、隠れて排泄するようになることがあるため叱るのは避けるべきです。このようにして犬は安心してトイレを覚え、家庭内での快適で衛生的な生活が続けられるようになります。

まとめ

これらのトレーニング方法に取り組むことで犬は人間社会のルールを学び、飼い主様と犬の間の相互理解が深まるでしょう。つまり、愛犬を正しくしつけることは犬と人間の暮らしを豊かなものにする第一歩となります。なかなか思うようにしつけられない場合や、愛犬に問題行動がみられる際には、ドッグトレーニングにすぐにご相談ください。問題行動が長引くと習慣化されて修正に時間がより多くかかってしまうことが少なくありません。

また、飼い主様が犬のしつけについて正しい知識を持つことも大切です。トレーニングを利用するときは飼い主様も一緒に参加できるとよりよいでしょう。
一緒に参加して愛犬の新しい一面を見つけたり、成長の過程を見守ったりすることによって、愛犬をより深く理解し、適切な関係を築いていく手がかりを得ることができるでしょう。
私たちエヴァーグリーンペットクリニックでは、愛犬の悩みをその程度に関わらず丁寧に取り扱い、ご家庭に合わせた最適なトレーニングを提供することによって、1日も早く、そして長く幸せにともに暮らしていただくサポートを目指しています。お気軽にご相談ください。


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